未来の価値

第 24 話


「枢木スザクです。宜しくお願いします」

そう笑顔で挨拶をした人物を、俺は驚きのあまりポカンと間抜けな顔で見てしまった。
だってここはアッシュフォード学園2年の教室。
つまり俺たちの教室だ。
そこに、学生服を着たルルーシュの親友が突然転校生としてやってきたのだ。
確かに今日、急に転校生がやってくるという話が何処からともかく流れて来て、誰が来るのだろう、可愛い女の子か!?と盛り上がってはいた。
だが、その人物がまさかあのスザクだなんて予想外だった。
確かにルルーシュはスザクを学園に通わせると言っていた。
でも、昨日会長が「ルルちゃんから連絡がや~っと来たわよ。再来週の月曜に、スザク君が入学するから、みんなよろしくね!」と言っていたのだ。
再来週の月曜。
再来週を聞き間違いだとしても今日は土曜。
ルルーシュと会長がそんな凡ミスをするとは思えない。
なんで、こいつが今ここにいるんだ?
はっ!俺が曜日も聞き間違えたのか!?
それならあり得る。
ありえるのか?
いや、きっとそうだろう・・・そうなんだよな?
困惑し視線をシャーリーに向けると、彼女も同じようにポカンとしていた。
ああ、あの顔はきっと俺と同じ事考えてる顔だよ。
だめだ。解らない。
何でこいつがいるんだよ。
あー駄目駄目。俺がいくら考えた所で答え何て出るはずがない。
とりあえず本人から聞くのが一番だよな。
早く休み時間になれと、焦る気持ちを抑えながら授業を受けた。


「どういう事なのスザク君!」

休み時間となり、シャーリーからの連絡を受け大急ぎで生徒会室へとやってきたミレイは、スザクに詰め寄った。

「ルルちゃんは再来週の月曜って言ってたはずよ!?」

私の聞き間違い?それとも連絡係の人が何か間違えたの!?
もしそうでなければ何か急に日程をずらす事が起きたの?

「そ、そうですね。僕も再来週の月曜だって、ルルーシュから聞いてました」

スザクはミレイの勢いに押され、後ずさりながらそう答えた。

「・・・やっぱり再来週の月曜でいいのよね?じゃあ、なんで今日いるの?」

同意を示した回答に、ミレイは怒りを鎮め、不思議そうに尋ねてきた。

「それが・・・」
「それに、制服とか鞄とか、どうしたの?私、ルルちゃんにまだ渡してないわよ?」

スザク君の制服も、教科書も。
全て用意して、このクラブハウスの中に保管している。
来週にでも、ルルーシュとの橋渡しをしてくれている緑色の髪の少女が取りに来ることになっていた。
だから、用意している事を当然ルルーシュは知っている。
なのに、今ここにいるスザクは、それとは別の制服を身につけている。
鞄も学校の指定鞄だ。
全員の視線が、どういう事!?と訴えていた。

「・・・こちらで用意していただいたものじゃないんです」

その事にもスザクは同意を示した。
これらのものは、ルルーシュから渡されたものではないのだ。

「・・・今朝、取り扱っているお店に行って、全部そろえたようなんです・・・」

スザクは言いづらそうにし、視線を床に向けながら言った。

「揃えたって誰が?」

ミレイは眉を寄せ不愉快そうに尋ねると、スザクは暫く口ごもらせた後、ある人物の名をあげた。

「・・・ユーフェミア様です」
「ユーフェミア様が!?」

その名前を聞いて、ミレイは驚きの後に苦虫を噛み潰したような表情をした。ルルーシュから聞いた話では、ミレイは幼いころ皇宮に出入りしていたという。もしかしたらユーフェミアの事も知っているのかもしれない。

「ユーフェミア様って、誰ですか?」

リヴァルが不愉快そうに呻いているミレイに恐る恐る尋ねた。

「・・・第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女殿下。ルルちゃんの妹で、ナナちゃんの姉に当たるお方よ」

深い深いため息のあと、ミレイは二人に説明をした。

「って、皇族!?」
「ルル以外の皇族が、スザク君を入学させたの!?」

なんで!?どうして!?
スザクとどんな関係があるかは知らないが、ルルーシュがスザクを入学させようとしているのに、なんで他の皇族も手をまわしているの?
二人は目を白黒させてスザクに尋ねたが、スザクは困ったように眉尻を下げただけだった。

「ユーフェミア様はルルちゃんの妹君ではあるけど、お母様が大貴族の出だから、ルルちゃんより力のある皇族なのよね。皇位継承権もルルちゃんより上で、戦女神とも言われているコーネリア皇女殿下の同腹の妹君よ」

コーネリアは、ブリタニアの皇族の中では有名な人物だ。
数々の戦場で功績をあげ、エリア拡大に大きく貢献している。
思わぬ名前に、シャーリーとリヴァルは驚き声を無くした。

「スザク君、どうして君をユーフェミア様が入学させたのか、説明、してもらえるかしら?」

解る事だけでもいいから。
既に怒りなど無く、諦めたような表情でミレイは尋ねた。
ユーフェミアが言い出した以上、覆す事は出来ない事をきっと知っているのだ。
スザクは頷くと、今朝の事を話し始めた。

「今日、ルルーシュは朝からキョウトへ行ったので、トウキョウに残った僕はKMFのテストを行っていたんです。そこにユーフェミア様が来られて・・・」

大変だったんです。
スザクもまた深いため息をついた。



ざわざわと、周りが何やら騒がしいなと、ランスロットのコックピット内にコードを通し、計器を弄っていたロイドは顔をあげた。
操縦席に座っているスザクも、何だろう?と顔をそちらに向ける。

「セシル君、何の騒ぎ?」

ランスロットから少し離れた場所にある計器を弄っていたセシルにロイドが声をかけると、同じように声の方に視線を向けていたセシルは、解らないと首を振った。

「誰か来たのかなぁ?殿下なら、も~っ大大大大歓迎だけど、今キョウトにいるはずだよねぇ」

ロイドの名前なしの”殿下”はただ一人、ルルーシュを指す。
だからスザクも、ルルーシュではありませんよ。と伝えると、だよねぇ~。と、何処かがっかりした様子で作動させていた計器類を停止させ、セシルの元へと移動した。
騒ぎのせいで調整ミスなどしたくは無いため、休憩するのだろう。
スザクもコックピットから降り、移動した。
その時、たたたた、と人が走る音が聞こえて来て、そちらへ視線を向けると、桃色の髪をなびかせ、長いドレスを身に纏った少女がこちらに向かって走って来ていた。
大輪の花が咲き乱れているような明るく美しい笑顔を浮かべ、走ったことで頬を上気させている少女は、先日政庁前で出会った人物だった。
一般市民が紛れ込んだことで、騒ぎになっているのだと悟ったスザクは、駆けこんできたユーフェミアの元へ近づいた。
スザクの傍まで走ってきたユーフェミアは、その足を止め、僅かに息を弾ませながら可憐な笑顔を向けてきた。

「ユフィ、駄目じゃないか。ここは軍の施設だよ。どうやってはいってきたのさ」
「ふふ、入るのは簡単でしたよ?ただ、ここに来るまでが大変でしたけど」

にこにこと楽しげに話すユーフェミアに、スザクは困ったように眉尻を下げた。
軍の施設に入った以上、いろいろ面倒なことになるというのに、彼女はその事に気づいていないようだった。

「それで?どうしてここに?」
「スザクに会いに来たんです!」
「僕に?」

まさかの回答に、スザクは目を瞬かせた。
自分に合うために、一般市民が政庁傍の警備施設に侵入したのだ。
これは拙いなと、スザクは内心頭を抱えた。

「はい、スザクに」

だが当のユーフェミアは、それはそれは嬉しそうにほほ笑むだけだった。
自分が何をしているのか理解していない様子に、ますます頭を抱えたくなった。
ルルーシュと関係深いとされているスザクの、イレブンの不祥事だ。
それでなくても立場の弱いルルーシュの足をこれ以上引っ張る事にならなければいいのだが。そんなスザクの気持ちは一切伝わっていないようで、ユーフェミアはにっこり笑顔で話し始めた。

「私思ったんです。スザク、例え軍に属していても、17歳ならば学校に通うべきです」
「へ?」

予想外の言葉に、スザクは思わず間の抜けた声をあげた。


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